国家公務員共済組合連合会広島記念病院

広島記念病院ブログvol.10

膵のう胞性疾患

膵のう胞性腫瘍とは?

膵のう胞性腫瘍とは、膵臓内に液体や粘液などを貯留する袋状の形態(のう胞)を示す腫瘍の総称で、健診などで偶然発見される機会が増えてきています。全人口の約2~3%の人が、膵のう胞性疾患を合併しているという報告もあり、決してまれな病気ではないといえます。年齢とともにその割合は増加し、80歳以上では8~9%の合併頻度ともいわれます。健診で偶然発見されることが多いため、当院を受診される患者さんの約7~8割が無症状です。放置しておけば悪性になる可能性が高いものと、基本的に経過観察でよいものがあります。

代表的な膵のう胞性疾患

良性の疾患

  • 仮性のう胞
  • 漿液性のう胞性腫瘍(SCN)

悪性リスクのある腫瘍 = 手術の対象となる腫瘍<

  • 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
  • 粘液産生膵腫瘍(MCN)
  • Solid-pseudopapillary neoplasm(SPN)

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)とは

膵のう胞性腫瘍の代表ともいえるものが、この膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)といえます。検診で偶然膵嚢胞を指摘された場合、このIPMNである可能性が高いといえます。
 IPMNは、良性の病変から悪性の病変を含んだ、いわゆる大腸のポリープのような病気で、時間経過とともに段階的に悪性になっていくことが知られています。悪性になると周囲臓器に浸潤し、膵がんと同様な経過をたどりますが、IPMNの予後は、「通常の膵がん」と比較すると良いといえます。また、悪性化の前段階で発見・治療が可能な、「治癒可能な膵がん」ともいえ、検診などで膵のう胞を指摘された場合は、まずは、精密検査を受けていただくことが大切です。

1.IPMNはどんなものですか?

IPMNは、膵管の上皮から発生する腫瘍です。膵臓では、小さな膵管が次第に合流し、最後は主膵管といわれる大きな膵管なり、膵実質で分泌されたアミラーゼやリパーゼなどの膵酵素(消化酵素)を消化管内に分泌しています。IPMNは、小さな膵管から主膵管と呼ばれる比較的太い膵管までのすべての膵管上皮から発生しうる腫瘍です。特徴として、粘液を産生し膵管を閉塞したり、粘液を貯め込んでのう胞状の「ブドウの房」とたとえられる形態を示します。

2.がんのリスクが高いIPMNはどんなものですか?

IPMNの病変が存在する場所により、「主膵管型」、「分枝型」、その両者の間に発生した「混合型」の大きく3つに分けられます。膵管は、細い膵管が集まって最終的に主膵管になりますが、この主膵管に腫瘍があるものを「主膵管型」といいます。主膵管への腫瘍の進展は、悪性を示す重要なサインで、当院の検討でも、特に、主膵管の太さが1cmをこえて拡張してくると約60~70%が浸潤がんでした。
一方、「分枝型」は、主膵管になる前の比較的細い膵管に腫瘍ができ、ブドウの房のように膵管が袋状に拡張するものです。「主膵管型」と比較すると、悪性度は低く、嚢胞の大きさによっては、経過観察が可能な場合があります。
主膵管の太さ以外で、悪性を示す重要なサインとして、のう胞内部のポリープの存在や造影剤によって染まるのう胞壁、のう胞が3cmを超えるサイズである、膵炎や黄疸などの症状があるなどの所見です。

がんのリスクが高いIPMN

2012年IPMN/MCN国際診療ガイドラインより抜粋

がんの可能性が高いIPMN
High-risk stigmata
がんの疑いがあるIPMN
Worrisome features
黄疸 膵炎の症状
主膵管径が1cm以上に拡張 のう胞の大きさが3cm以上
のう胞内にポリープ(充実性成分)あり 厚い造影されるのう胞の壁
尾部の閉塞性膵炎を伴う主膵管狭窄
リンパ節の腫れ

3.経過をみてよいIPMNがあると聞きましたが。

「主膵管型」は全例治療の対象ですが、逆に「分枝型」といわれる主膵管への進展がない病変は、大部分の患者さんは、経過観察が可能な良性の病変です。
IPMNに関する科学的なデータがそろいつつあり、悪性のリスクがない、いわゆる「分枝型IPMN」については、3cm程度のサイズまでは経過観察が可能ということが分かってきました。現在は、より厳重にフォローすることで、嚢胞径が4cmを超えるIPMNについても経過観察をされる場合も出てきました。

4.IPMNの原因は?

IPMNができる原因については、現在のところはっきりしていません。慢性膵炎、アルコールの摂取、喫煙、肥満、膵疾患の家族歴などは、IPMN発生リスクであるということが分かっています。

5.IPMNと膵がんの関係は?

IPMNと膵がんは同時にできやすいことが報告されています。当科で行った切除患者さんをみると、約10%前後の患者さんが膵がんを合併していました。全国の平均をみると4~8%程度のIPMNの患者さんに膵がんができると報告されています。アメリカのガイドラインでは、5年間サイズが変化なければ、フォローを中止してもよいとされていますが(AGAガイドライン2015)、膵がんができやすいことを考慮すると、小さな分枝型のIPMNでも定期的に、膵臓全体の検査を受けることが大切と考えます。

6.IPMNの経過観察、治療の選択はどのようにされますか?

IPMNの診断、治療については、基本的には、国際膵臓学会(IAP)で作成された国際診療ガイドライン2012をもとに行われます。主膵管の拡張の程度(1cm以上)やのう胞内に腫瘤がある場合など、がんの可能性が高い場合(high-risk stigmata)、手術を行います。その他、症状の有無や腫瘍マーカー(CA19-9, DUPAN-2, SPAN-1)、患者さんの年齢・全身状態、膵疾患の家族歴など、総合的に判断し治療方針は決定されます。がんの可能性が低いIPMNについては、IPMNの状態によって、経過観察の方法、期間が選択されます。

7.IPMNに対する手術は、どんなものですか?

IPMNの治療は、外科的な切除になります。基本的には、がんの疑いがあると判断した段階で手術を行います。通常の膵がんと同じ手術(リンパ節郭清を含めた膵切除術)を行います。当院では、周囲へ臓器の浸潤、リンパ節への転移の可能性などを考慮し、基本的には縮小手術(リンパ節郭清を行わない膵切除・脾臓温存の膵体尾部切除)・腹腔鏡下手術は行わない方針としています。

8.IPMNに対する化学療法

がんと診断された場合、「通常型の膵がん」に準じた、抗がん剤による化学療法を行います。具体的な内容は、病状の進行の程度やご本人の全身状態を考慮し決定しています。

9.分枝型のIPMNと診断されましたが、どのような検査や間隔が良いでしょうか?

IPMNの中でも、特に、主膵管への進展がなく、腫瘤がはっきりしない「分枝型」のIPMNは、悪性の可能性が低く、経過観察を行います。のう胞のサイズ、腫瘍マーカーの状態、糖尿病の有無や家族歴などを総合的に考え、個々の患者さんに合わせ決定します。大まかには嚢胞のサイズによって、CT、MRI、腹部エコー、EUSを組み合わせて検査を行っていきます。

10.当科の治療成績

2007~2017年4月までに、当科では約40人の方が外科手術を受けられました。2012年以降の5年間は、経過観察の後に切除を行った方が約3分の1を占め、経過観察後に手術を行った患者さんが増えています。「通常型の膵がん」と比較し、IPMNの切除後の予後は良好で、5年生存率(5年間生存されている患者さんの割合)は、IPMN浸潤がんの場合、70%を超えています。
IPMNは、膵がんについで膵臓で代表的な病気です。時間の経過とともに悪性化していくことが知られており、早期の段階で診断・治療を行えば根治できる「膵がん」でもあります。また、生涯にわたって悪性にならない経過観察が可能な「分枝型」のIPMNの存在も明らかになってきており、今後、さらなる検討が必要と考えています。

粘液産生膵腫瘍(MCN)とは

1.粘液産生膵腫瘍(MCN)とはどんな病気?

IPMNは、高齢の男性、膵頭部に多く発生するのに対し、MCNは中年の女性に多く、膵尾部にほぼ限定して発生するという特徴があります。また、IPMNは、主膵管とつながっていて(交通があり)、膵管内に粘液をためることが多く、また、膵炎に似た腹痛や糖尿病などを合併することが多いといえます。一方、MCNは、通常膵管とのつながり(交通)はなく、のう胞内部にのう胞ができるcyst in cystと呼ばれる形態をとることが特徴です。膵尾部にできるため、症状もほとんどなく、検診で偶然発見されることが多い腫瘍です。病理学的には、卵巣様間質と呼ばれる、卵巣の組織に似通った組織(ovarian type stroma)をもつことが診断の根拠となります。

2.MCNは悪性ですか?

MCNは悪性の可能性がある病気です。MCNは、IPMNと同様に、悪性化する可能性(malignant potential)を持つ腫瘍で、診断がついた場合、手術をおすすめします。IPMNは、比較的おとなしい腫瘍から浸潤がんまで、幅広い組織像を示し、ゆっくりと進行していくことが分かっています。一方、MCNは、IPMNと比べると悪性度は高く、診断がつき次第切除したほうが良い病気といえます。

IPMNとMCNの比較

IPMNとMCNは、膵臓にできるのう胞をつくる腫瘍ですが、以下のような違いがあります。

IPMN MCN
悪性の可能性 あり あり
性別 男性に多い 女性に多い
好発年齢 高齢者に多い 中年
症状 膵炎に似た症状を認めることが多い ほとんどない
膵管とのつながり(交通) 交通あり ない
卵巣様間質 なし あり
通常の膵がんの合併リスク あり なし
治療 分枝型など悪性のリスクがない場合、経過観察 診断されたら切除
術後のフォロー 残った膵臓にIPMNや膵がんが発生しないか定期通院が必要 がんでなければ定期検査は必要なし

3.MCNの診断方法は?

基本的には、膵がんの診断と同様な方法で行います。主な検査として、血液検査、画像検査(超音波検査、CT検査、MRI検査)、そして、内視鏡による検査を行います。

4.MCNの治療方法は?

MCNの治療は、外科的な切除です。当科では、通常の膵がんに準じ、リンパ節の郭清を行う標準的な手術を行っています。術前の診断で、明らかに浸潤癌の所見がない病変に対しては、体への侵襲をより低減するために、腹腔鏡を使用した手術(腹腔鏡下膵体尾部切除術)も選択肢となってきました。

5.MCNの治療を受けましたが、再発の検査のための定期的な通院が必要ですか?

IPMNは術後残った膵臓にIPMNの病気が再発したり(異時性多発)、膵がんの発生のリスクがあるために、残った膵臓に関しても術後も定期的な検査が必要です。一方、MCNは、手術で取り切れている場合や、良性の場合は、術後定期的な経過観察は必要のない病気です。

Solid-pseudopapillary neoplasm(SPN)とは

膵臓にできる嚢胞性腫瘍の1つで、その発生の起源はよくわかっていません。

20~30歳台の若年女性に多く発生し、膵尾部側に発生しやすい腫瘍です。基本的には良性の病気といえます。一方、リンパ節への転移を認めた例や、再発したという悪性例の報告があり、SPNと診断された場合、手術をおすすめします。

画像的には、厚い線維性の被膜に覆われて、球形、腫瘍内部は充実性部分と出血、嚢胞部分が混在するような病変です。SPNに特徴的な症状はなく、健康診断での超音波検査やCT検査で、偶然発見される機会が多い腫瘍です。

漿液性嚢胞性腫瘍(SCN)とは

SCNは、膵臓にできる良性の腫瘍です。特徴として、MCNと同様に中年の女性、膵体尾部にできやすい円形の腫瘍です。腫瘍の形態から、壁が数mm径の小さなのう胞が集まってできる多房性といわれるタイプ (microcystic type)と、大きなのう胞が主体となっているタイプ (macrocystic type)があります。内容は、水のような液体成分で、MCNと同じように膵管との交通はありません。全国集計では、SCNの悪性例の報告が数例ありますが、基本的には良性の病気で、診断ができれば経過を見てよい腫瘍です。しかし、他の悪性のリスクのあるのう胞性腫瘍と鑑別が難しい場合や、腫瘍の増大による圧迫症状や腫瘍内に出血したりする場合は、外科切除が治療となります。また、4cmを超えるような大きな腫瘍は悪性例が多いという報告もあり手術を行っても良いと考えます。

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