国家公務員共済組合連合会広島記念病院

広島記念病院ブログvol.23

アッペ、ヘルニアのお話

アッペ、ヘルニアのお話

(副院長兼外科医長 坂下 吉弘)

アッペ、ヘルニアと言えば、以前は外科医になって最初にマスターしなければならない手術でした。30年以上前ですが、私も研修医となって最初に執刀できる手術なので、一生懸命、皮膚切開から筋膜切開、腹膜切開の順番や使用する手術器具の名前を覚えて手術に臨み、先輩指導医から解剖について質問されながら執刀させていただいたものです。しかし、平成から令和に時代が変わり、内視鏡下手術の進歩により、手術術式も大きく変わりました。腹腔鏡下手術は、胆のう摘出術から始まり、大腸がん、胃がんを中心に、今では肝臓切除や膵切除まで行うことができるようになっております。アッペ、ヘルニアも例外ではなく、この10年で大きく術式が変わったため、今回はアッペ、ヘルニアの新しい手術について説明したいと思います。

虫垂切除術(アッペ)について

虫垂切除術(アッペ)について

以前は開腹手術が主流で、腹腔に到達する方法としては、McBurney法とLennander法があり、いずれも小さな切開創から筋肉をよけながら腹腔に到達し、虫垂をいかに早く創外に出せるかで術者が評価されておりました。虫垂を取り出すにはコツがあり、最初の頃は苦労したこともよくありました。当院は単孔式腹腔鏡下虫垂切除術を導入しており、臍部に約2-3㎝の皮膚切開を置き、これよりカメラと手術鉗子2本を挿入します。腹腔鏡手術のおかげで、モニターに腫大した虫垂が大きく映し出され、誰が見ても「これが虫垂!」となるのです。あとは、生理的癒着を丁寧に剥離して、臍の創部まで虫垂を受動し、開腹手術と同様に虫垂切除、断端埋没縫合閉鎖を行います。再度気腹して、出血のないことを確認して、創閉鎖し手術終了となります。単孔式腹腔鏡下虫垂切除術は、全身麻酔が必要ですが、低侵襲で、術後の痛みも少なく、安全に行うことができるため、グラフにあるように、現在ではほとんどの症例に対して適応しております。

鼠経ヘルニア(ヘルニア)について

鼠経ヘルニア(ヘルニア)について

いわゆる脱腸ですが、鼠経ヘルニアに対する手術としては、前方アプローチと腹腔鏡下手術があります。私の研修医時代は、Bassini法(精索を受動し、内腹斜筋、腹横筋、横筋筋膜のすべてを鼠経靭帯に縫い付ける補強術)が行われており、術後に痛みで多くの患者さんが苦しんでおられた経験があります。その後、平成初期にメッシュによるTension free repairが主流となり、Mesh plug法、Kugel法、Lichtenstein法など、術者によって選択されておりました。当院では2013年度から腹腔鏡下鼠経ヘルニア根治術(TAPP法:Transabdominal preperitoneal approach)を導入しております。

臍部より腹腔鏡を挿入して、左右の下腹部に鉗子用の5mmポートを留置して手術を行います。この手術は全身麻酔が必要になりますが、メリットとしては、以下があります。

① 手術創が小さく、痛みが少ないので早期の社会復帰が可能

② ヘルニア門を直接確認出来て、確実に閉鎖することが可能

③ 反対側にヘルニアを認めたときには、同一手術創で同時に手術可能

④ メッシュ感染のリスクが低い

(広報誌きねん第62号の掲載記事と同じものとなります。)

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