肝細胞がんの多くは、B 型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染が原因で起こる慢性肝炎、肝硬変がもとで発生するといわれています。最近では、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)という病態が発がんに関連していることが注目されています。肝炎ウイルスが持続感染(キャリアの状態)している場合、B型肝炎ウイルスの増殖を抑えたり、C型肝炎ウイルスを排除したりすることによって、肝細胞がんの発生をある程度予防することができます。NASHの場合も、食事・運動療法や薬物療法で病態の進展を防ぎ、肝細胞がんのリスクを減らすことが重要です。
肝細胞がんの診断・治療
肝細胞がんの診断
B型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)感染や感染の既往がある患者さんや、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の患者さんは、肝細胞がん発生の高リスク群となりますので、エコー検査を主体とした画像検査や腫瘍マーカーを含めた血液検査による定期フォローが推奨されています。また、肝硬変症例などのさらにリスクの高い方には、dynamic CT またはdynamic MRI をお勧め致します。
肝細胞がんの治療
肝細胞癌の治療は、肝予備能、肝外転移の有無、脈管侵襲の有無、腫瘍の数、腫瘍の大きさなどの因子をもとに選択されます。肝臓の機能が比較的保たれていて、肝外転移や脈管侵襲が無く、3個以内、3cm以内であれば、肝切除か焼灼療法が選択されます。3cmを超えるものは肝切除か肝動脈塞栓療法が主に選択されます。4個以上になると肝動脈塞栓療法や薬物療法を行うことが多くなります。また、肝臓以外の臓器に転移を認める場合は、薬物療法が推奨されます。肝機能が不良な場合は、肝移植や緩和治療が治療の中心となります。以下に『肝癌診療ガイドライン』(2021年版)から抜粋した治療アルゴリズムをお示しします。ただし、これはあくまで一般的な指針を示すものであり、実際には患者さんごとに最も適切な治療法を提案させて頂いております。
肝細胞がんの外科治療
肝細胞がんの治療において、手術治療はがんを完全に切除できる(局所制御性)最も確実な治療法です。肝細胞がんの治療方針は、腫瘍の大きさや数、場所および肝予備能を総合的に判断し決定します。肝切除の適応となる肝細胞がんは、基本的には肝臓以外の臓器に転移を認めず、個数が3個以下のものです。手術を行う場合、肝機能の評価は非常に重要で、一般的な採血による肝機能検査やICG試験をはじめとする特別な検査を行います。治療方針は、肝機能と予定肝切除量とのバランスから決定していきます。
切除に関連して、腫瘍の大きさは制限がありませんが、肝細胞がんの多くは肝硬変をはじめとする慢性肝疾患を背景として発症するため、肝臓の半分以上を切除するといった比較的大きな肝切除(拡大肝切除)はできない場合が多いといえます。比較的小さながん細胞がんに対しては、より低侵襲な治療として腹腔鏡下肝切除も考慮されます。一方、肝機能が不良で手術ができない場合もありますが、術前化学療法で癌を縮小させたり、経皮経肝門脈塞栓術(PTPE)といった特別な処置で肝機能の改善を図ったりした後に手術を行う取り組みも行っています。
肝細胞がんの内科治療
がんを確実に取り除くという面から、手術は最も確実な方法ですが、肝機能が悪くて手術ができない患者さんに対しては、経皮的ラジオ波焼却療法(RFA)による穿刺局所療法や肝動脈化学塞栓療法(TACE)、薬物治療、放射線治療などを組み合わせた集学的治療を行います。
経皮的ラジオ波焼却療法(RFA)
RFAをはじめとする穿刺局所療法は、局所麻酔でエコーを見ながら肝臓の腫瘍に皮膚を通して針を穿刺し、挿入した針からラジオ波を発生させて腫瘍を熱凝固させる治療です。対象となるのは、腫瘍のサイズが3 cm 以内で3 個以下の患者さんです。この穿刺局所療法は比較的安全に施行可能で、出血、肝膿瘍、肝梗塞、消化管穿孔、血胸などの報告がありますが、いずれも少ない頻度です。肝門部近くや肝内の血管が近い場合、また、大腸などの消化管が近くにある場合は、合併症が起こりやすいため、肝動脈化学塞栓療法(TACE)など他の治療法を選択します。
肝動脈化学塞栓療法(TACE)
肝細胞がんは、一般的に肝動脈から栄養を供給されます。肝動脈化学塞栓療法(TACE)は、腫瘍を栄養する肝動脈内に、血管内カテーテルを使用して抗がん剤を注入し、さらに塞栓物質を注入して栄養動脈を塞栓する方法です。腫瘍は阻血壊死に陥り、縮小します。TACE は肝機能がある程度保たれている患者さんで、手術や穿刺局所療法の対象とならない多血性肝細胞がんに対する治療法として行っています。
薬物療法
外科切除や局所療法、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、肝移植が適応とならない患者さんに対しては、全身状態と肝予備能が良好な場合、薬物療法を行います。2009年5月にソラフェニブという薬が保険収載され、長く使われてきましたが、2018年3月にレンバチニブ、2020年9月にアテゾリズマブ+ベバシズマブがそれぞれ保険収載されました。現在、上記3つの治療薬が一時薬物療法として使用可能です。また、二次薬物療法以降の治療薬として、レゴラフェニブ、ラムシルマブ、カボサンチニブなどの薬が使用可能であり、患者さんごとの全身状態や肝予備能、肝がんの状態などを総合的に判断して治療薬を選択していくことになります。肝がんに対する薬物療法はここ数年で進化しており、今後も変化していく可能性がありますので、最新のガイドラインに準拠した治療を心掛けるようにしております。
※2023/1/23 一部内容を最新の情報に更新いたしました。